2015/12/29

からかい上手の高木さん に漂っている、壊れやすさと悲壮感。
二人は幸せなように描かれているけど、男女が同じ立場でからかい合う、なんていうのは、小中学生の一時期にしか起こり得ないと思う。
(人生が充実している人はそんなことはないのかもしれないけど)
秒速5センチメートルのような、切なさが待っていてもおかしくないような怖さと期待がある。

高木さん と、となりの関君 はなんとなく表裏一体の感じがする。

からかわれたい、という感情と見守られたいという感情は、男子学生なら誰でも持っている。

2015/12/20

漫画と小説では漫画の方が好きだけど、感想を書くなら小説のほうが、いいと思う。
マンガは例外はあるけども、ほとんど紙面上で表現されているから、後からなにか言うべきことがほとんどない。
例えばワンピースもキングダムも、めちゃくちゃ面白いけど、真面目に何か感想のようなことは書きにくい。
逆に小説は説明しているようで、マンガよりも説明していないから、感想の書きがいがある。
心理描写が多いからと言う点もあるかもしれないけど。

マンガと小説を比べたら、漫画のほうが絵が付いているのだから、情報量が圧倒的だ。
そしてその情報量の多さ故に、考えることが難しくなっている。
説明していないのは実は小説のほうなんだと思う。

「死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々」 2

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阿部共実最新作。

 

初出を見てみると、必ずしも掲載された順に並んでいるわけではないことがわかる。

ひとつの作品としての流れを考えてくれているという配慮が嬉しい。

 

阿部共実のマンガの特徴として、女の子の会話文がとても魅力的であることが挙げられると想う。

 

「でもでもは女の子相手にご法度だよ 映画や漫画の話題だけではなくもっと日常会話でも私楽しませろーい」(7759)

 

こういう言葉を発する女の子こそ、阿部共実の作品に出てくる女の子の魅力だ。

フィクションの中でありながら、また別のフィクションの中から言葉を借りてきたような話し方をし、そのぎこちなさを韜晦するように、語尾は「ろーい」とふざける、みたいな。

 

「あれをね 奪ったらおもしろいんだよ」(同じクラスの鈴木君のねこの人形)

 

「あれを奪ったら面白いよ」ではなく、「あれをね」で一回ためることで、末尾の「だよ」が強調され、女の子的なたくらみの様子がうまく表現されている。

 

 

 

8304、7759 ともに数字4桁でこの巻で最も印象的な話だが、ふたつともタイトルの意味がわからない。

 

わかったらどんどん修正していこうとおもう。

はっきりいって、1巻のインパクトは超えられていないかもしれない。だが、今回8304のような、また新たな幻想的な世界に挑戦していて、実験的で面白く、読んでよかった。なんだか、綺麗なのだ。死んでいくのに。腐敗していく直前の、閃光のような儚い美しさがある。

 

 8304 7759 は、生きてきた時間の長さか。そういうことを指摘している人がいて、なるほどなと想った。

ただ、自分としては、8304のけんちゃんは、7759の橘くんと同一人物ではないかと想っているので(「自分は欠陥だ」とおもっているところなど、そういえば古谷実の「ヒメアノール」の殺人にしか快楽を感じないやつに近いものを感じる。)

その解釈だと7759で人生が終わっているはずの橘が、8304という累計日数に到達できるはずがないから、橘とけんちゃんは別、あるいは数字には別の解釈があるということになる。

なんにせよ、感想を書きたいと思わせるマンガだ。すばらしい。

 

 

 

 

 

きれぎれ  町田康    

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芥川賞をとったらしいけど、町田康の最高傑作はやはり「告白」で、それと違って現代の物語を書いたらテイストがほぼ同じになってしまうんだと思った。

「きれぎれ」も、もう一編収録の「人生の聖」も、面白いところはあるけど、それを帳消しにするくらい読みにくい。特に後者はひどくて後半は拾い読みみたいになった。

「愚劣ランチ」「栄養の眼」「難解な飯」などの面白い言葉はあるんだけれど

「世界の終わり、あるいは始まり」  歌野昌午      

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息子よ、お前なのか。

 

「葉桜の季節に君を想うということ」を以前読んだときから、この作者はすごい人だと思っていたが、この作品でそうした思いはさらに強まった。

 

非常に実験的だ。何にせよ、実験的なものは評価したい。

パラノイアじみた父親の思考の物語。

ここまで緻密に妄想できたら、もはや現実を生きる意味はあまりないのかもしれないね。

世界の終わりを、父親は何度も体験する。妄想の中で。

そして妄想で得られた凄惨さを回避するために、妄想からフィードバックしてまた妄想をする。

タイムリープものに本質が似ている気がする。フィードバックして強くなる。

 

最後まで、事態は動いていない。動いているのは父親の頭の中だけである。

エロゲー的リアリズムというか、バッドエンドの妄想が複数あって、それが緻密なのだ。

 

父親は妄想から帰ってこれなくなるかと想った。

けれど、最後には現実と言う世界の始まりに戻ってこれた。

妄想という世界の終わりから、現実という世界の始まりに行き着くまでの物語なのだ。

いい。

 

 

「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」 西尾維新    

 

 

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かねてより読みたかった西尾維新の作品。そしてこれがデビュー作。

 

この本の中で、主人公の「ぼく」は人生に絶望している。何事にも無関心だが、他人には流されてしまう。無関心だが、それを理由にコミュニケーションをすべて断絶するほどの勇気や根性はなく、ただ流される。

 

最初のほうの、「人の生き方ってのは~」から始まる、何物かはっきりしないやつとの会話が、妙に突き刺さった。往々にして読書をしたときは、筋を要約するときに必ずこぼれるような部分のほうが、胸に残ったりするもので、そういう部分を考えるときが一番楽しい。筋なんかウィキペディアにのってるんだから、自分が言う必要なんてない。

 

自分の価値の低さを認識して生きていくことに価値はあるのか。

それだったら世界の価値の低さを感じながら、世界を見下して生きたほうが、精神的には安全じゃないのか。

自分の価値を何物かに回収されるのか、それとも自分が回収する側に回るのか。

 

自分の価値の低さに絶望することに意味なんてない。あるとすれば、せいぜい、「かわいそうだね」といって近づいてきてくれる優しい人の同情を買えるだけだ。

従順になって絶望して奪われる側にしかいられないくらいなら、適当なところで反抗して奪う側に回ったほうが、他人はどうあれ、自分にしたら得しかないじゃないか、と思う。

 

他人に回収されたい、という思いは、結局のところ、他人の中でいつまでも自分を作品のように存在させたいと言うことなんだろう。

その作品の要素を、植物を育てるように、他人に散布させたいと思っているんだせいぜい。

これがくだらない。

 

回収 と 散布 から自由になること

 

内容自体は、ミステリ。

話がわかるとタイトルの上手さがわかる。

キャラクターの描写が非常にアニメ的で、挿絵は章と章の間にしか入っていないが、ライトノベル的と感じる。

ミステリ自体のすごさは可もなく不可もなくと言った感じ。

 

主人公とヒロインについての説明が最後まできちんとされていない。一体5年前に主人公に何があったのか。

1巻で説明してほしい。

また、「戯言だよな…」という独り言は、かなりキモく、読んでるとなんなんだこいつは、と思ってくる。

ただ、そういう意味でいい感じでハードルが下がるので、たまに出てくる上手い表現を見ると、やるじゃん、と思いやすい。

まとめると、やっぱり話題になるだけのことはあって西尾維新はうまい、ということ。

 

 

 

 

 

 

「!」 二宮敦人

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3編のホラーを収録
「クラスメイト」はミスリードを誘うのが不自然すぎる。

「穴」は主人公の女の死体に対する感覚が慣れすぎてて、こいつが夢遊病的に殺してたのかとも思ったが、そこは単純に描写が甘かっただけらしい。
でも犯人はそれ以外なら男だと思っていたから、意外と言えば意外だけども、すかっとしない。

「全裸部屋」この中では一番いいんじゃないか。
設定がありそうであまりない気がする。最後まで人為的な何かを感じさせずに、女が哲学的になっていくのは面白い。
部屋がどんどん小さくなって行く描写がうまい。
体育座りの状態で足の間に頭を入れるけどもう戻せなくなる、とか。
ただ、あまりにも客観的になりすぎていて、例えば、彼氏と電話して自分の悲劇の異常さを他のフィクションと比べるところなどは、説明しすぎている感がある。そういうのは読んだ人の心の中に感じさせるべきもので、作中で直接言うものではないのではないか。

アルファポリス文庫は市川拓司がすごかったけど、やっぱり荒削りなものも多いなー。もとがネットだから仕方ないけど。
全部「全裸部屋」くらいのクオリティなら良かったんだけど。

タイトルはうまいと思う。手に取らせる